近年、複雑なシステムをそのネットワーク構造に着目して研究する手法が盛んに用いられている。システムの構成要素同士のつながり関係を見ることで、その構成要素が担う役割を調べ、システム全体の機能を解析する。ここではネットワーク上のダイナミクスとして進化ゲームを中心に考えた。特に協力行動がどのようなネットワーク構造において進化しやすいかという問題が着目される。このような協力行動の進化の問題は進化生物学における基礎的問題の一つであり、社会科学的にも人間関係構造の問題として重要だからである。本研究ではネットワークを特徴付ける指標としてクラスタリング係数について考察した。クラスタリング係数の定義はいくつか知られており、どの定義を用いるかで結果が異なっていた。モデルとしてはKimが提案したネットワークモデルを拡張したものを採用している。このモデルでは初期値として連結グラフを用意し、ランダムなリンクの張替をクラスタリング係数が大きくなるようなバイアスをかけて繰り返し行う。このモデルによって次数分布が指定されたランダムネットワークからクラスタリング係数の高いものを作成できる。数値計算とペア近似を駆使した理論解析によってクラスタリング係数とゲームダイナミクスの定常解がどのように相関しているかを調べた。クラスタリング係数は定義が比較的簡単なためクラスター性の指標としてよく用いられているが、その数値を比較・評価するのは必ずしも容易ではない。さらなる研究の必要も見出され、社会構造と人間関係について新しい知見を与える手応えが得られた。
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