力学の運動方程式を、一般的な多様体上に構成されるベクトル場として定式化することで温度の幾何学的な意味を考察した。多様体上にラグランジアンやハミルトニアンといったスカラー関数を導入すると、その接空間のベクトル場として運動方程式が定義される。その運動方程式をあらわすベクトル場をリュービル演算子と考えることでリュービル演算子のエルミート性が議論できる。定温ダイナミクスを実現するにはリュービル演算子が非エルミートでなくてはならないが、いかなるリーマン計量を導入しても、時間に陽に依存しないラグランジアンから変分原理によって作られたリュービル演算子はエルミートであることがわかった。ただし、エルミートとなるリュービル演算子はハミルトニアンが定義される余接バンドルに定義されるベクトル場であり、接バンドルに定義されるオイラー・ランジュ方程式に付属するリュービル演算子は一般には非エルミートであることも分かった。この結果は、一般的な変分原理によりリーマン空間に導入される運動方程式は、少なくとも適切なラグランジュ変換によりエルミート化されるという事実を表す。温度を力学系に導入するためには、この変分原理を超える枠組みを導入する必要がある。
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