温度制御、および圧力制御された系の物理的な時間発展について調べた。Nose-Hoover法のような、全体の運動量をマクロに調整するタイプの熱浴では、系に非一様性がある場合に系の温度も一様にならない場合があることがわかった。もともと二原子分子系のような、粒子が内部自由度を持つような系においてはそれぞれの自由度でエネルギーの等分配則が成り立たないことが指摘されていたが、粒子が内部自由度を持たなくとも、気液混相系のような相分離した状態においては、高温領域と低温領域が緩和せずに安定化し、熱浴由来と思われる人為的な相平衡が実現すること、およびNose-Hoover法と同様な動作原理を持つ圧力制御法であるAndersenの方法においても同様な問題が生じることがわかった。局所的な温度制御法であるLangevin法ではこのような温度の非一様性は生じないが、緩和パラメータと時間刻みの関係によっては正しくポテンシャルエネルギーが制御されず、それは熱浴制御を切ったあとの温度上昇もしくは低下という形で現れることもわかった。これは、マクロな温度やエネルギーなどの観測量だけでは正しい制御ができているか判別できないことがあることを意味する。また、温度制御された系の時間発展を多様体の言葉で整理し、非エルミートなリュービル演算子が、そのままではシンプレクティック多様体と結びつけることができないこともわかった。したがって、温度制御された系の時間発展の数学的な意味は未だ不明瞭である。
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