研究概要 |
粉体気体系は局所非平衡系の統計力学を推進する理想モデル系として大きな発展が期待されている.本研究では,粉体気体系の非平衡定常状態の巨視的物理量を記述する新しい振動応答理論を基礎に微小重力環境をも視野に入れた統計則の探求により,理論とシミュレーションの双方から,振動応答や輸送に関する新しい基礎的方法論を確立し,それを応用させることを主目標とした. 本年度は,研究計画の最終年度であり,初年度の「1次元粉体振動層における基礎的方法論の確立」,2年目の「2次元粉体系(系の下方に熱壁を設置したモデル系)への振動応答理論の拡張」の成果を踏まえ研究を発展させた.特に,シミュレーションで重力と熱浴の相対的強さを系統的に変え,理論の適用範囲を調べた結果,系の密度反転とエネルギー等分配則や揺動散逸定理の破れに強い因果関係があることがわかり,理論に修正を加えた.また,高密度粉体系の輸送現象の統一的理解をめざし,「剛体球系のモラセステール問題」の研究を発展させた.シアストレス自己相関関数の長時間緩和(モラセステール)は,非平衡統計物理学やガラス(ジャミング)転移における重要問題として認識されている.LaddとAlderらは,固相-流動相転移点近傍のモラセステールを研究し,ロングタイムテールの流体力学的起源とは異なる機構(応力場の構造緩和に起因)で生じるという仮説を20年前に立てた.Laddらの研究は,コンピューターの制限により未解決問題となっており,系統的な大規模計算を実行し解明を試みた.その結果,緩和は3つの段階を経ること,緩和の第2段階では様々な緩和時間を持つ結晶核の存在により大きな相関が残ることなどが判明した.また,最大結晶核の崩壊時間や拡散領域の緩和関数などに関して定量的データを得た.本年度に得られた成果は,雑誌論文4本,国内外の講演13件(内,特別・招待・依頼講演6件)等で公表した.
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