本年度は、非平衡条件下での構造形成に関連する問題として、熱伝導状態のミクロなダイナミクスを詳細に調べた。特に定常的な熱伝導がある状態を調べるために、微視的な古典粒子モデルの熱伝導状態を計算機上で再現することにより熱流分布のミクロ分布がどうなっているかを直接調べた。その結果、定常熱伝導状態での分布では、高温側から低温側に向かう熱流(正の熱流)と、低温側から高温側に向かう熱流(負の熱流)でそれぞれ見かけの温度が違うことがわかった。さらに分布を詳細に調べると、正の熱流の分布は、熱流分布を測定している部分の温度より高い温度の平衡分布に漸近し、負の熱流の分布は、より低い温度の平衡分布に漸近することがわかった。この結果は、気相にある粒子系での結果であるが、他のモデルでも同じ性質を持つ定常熱流分布を持つことがわかり、そのような性質は普遍的に存在する様である。 今年度の研究で、定常的に熱が流れている状態、一般的には非平衡定常状態における分布の性質が明らかになったということは、いままでにあまり例がなく、本研究において熱伝導状態という非常にありふれた一般的な現象で非平衡定常状態の分布の性質が明らかになったということは、非平衡条件下での構造形成や、熱伝導に限らず、一般の非平衡定常状態の統計理論を作っていく上でも非常に重要な結果である。今後の、熱輸送に関する応用および一般の非平衡定常状態の理論構築に大きな影響を与えることが期待される。 また、これとは別に非平衡条件下での気泡核生成・噴霧流転移に関連する大規模シミュレーションを共同研究で行い、マクロ記述に対するミクロな状況が明らかになりつつある。
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