本研究ではこれまでに炭酸カルシウムペーストの乾燥破壊を中心に実験を行ない、亀裂成長の解析と応力測定の結果、亀裂進展速度は乾燥速度の非線形な増加関数として決まり、また粘性の大きな流体のペーストでは成長が遅くなることを見出した。これは極めて遅く成長する亀裂でも、半固体状態のペーストではレオロジーが強く影響する動的な成長をすることを示唆している。 本年度は負の間隙水圧が亀裂成長と同時に大域的な塑性緩和の原因になり得る点に着目し、これらの現象を説明する理論を提案した。ここでは主に、間隙水圧を考慮したペーストの自由エネルギーの現象論的な構成、バネ切りモデルに粘塑性を導入した数理モデルの提案、半直線亀裂に対する定常進行解の解析、および数値計算を行った。この理論は実験の主要な結果を定性的によく説明する。研究成果は学会および国際会議で報告済みで、現在研究中の内容を含めて論文にまとめる予定である。 また実験では亀裂成長時にできる羽毛状の破断面パターン(plumose構造)の特徴を調べた。Plumose構造は亀裂の進行方向を調べるために材料工学や地質学で利用されているが、その生成機構はわかっていない。流体を多く含むペーストでのみ見られるため塑性変形が重要であると推定できるが、測定の結果、凹凸の特徴はペースト層の厚さでスケールされ脆性破壊におけるmixed mode crackと共通点が多いことがわかった。この結果は物理学会で報告した。
|