研究概要 |
気相中では核スピン異性体間の緩和は殆んど起こらない。しかし、固体水素中のメタン分子では不純物のオルト水素濃度[ο-H_2]に依存してJ=1(I=1)からJ=0(I=2)への緩和速度が変化することが知られている。本研究ではパラ水素結晶中における分子の核スピン異性体間の状態緩和を振動遷移および回転遷移の測定することで、分子の原子核スピン異性体間の変換ダイナミクスを解明することを目的とした。 メタンのν_3バンドをフーリエ変換赤外分光器でモニターしながら結晶を作成したところ、約10ppmの濃度に調整されたサンプルをクライオスタット内で2Kに冷却した基板に20分程度吹き付けるのが最適条件と分かった。[ο-H2]を変化させることによって、観測されたメタン分子の振動回転遷移から異性体間の緩和時間の違いを測定した。その結果、[ο-H,]に比例して緩和速度が速まることを明らかにした。また、メタンの重水素化物についても同条件で結晶を作ることが可能であった。 回転遷移の測定では、クライオスクット内におけるマイクロ波の緩衝効果によるノイズが大きいために、回転遷移を観測することはできなかった。緩衝効果の影響に依存しない観測法として、マイクロ波吸収に伴う結晶の温度変化を観測する光熱変換検出を試みた。市販の熱電対10uV/Kでは感度が低いために、検出器としてインジウムInの薄膜を用いた超伝導センサーを開発し、10mV/Kの感度を得た。
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