気相中では核スピン異性体間の緩和が殆ど起こらない。しかし、固体パラ水素結晶中のメタン分子は不純物として僅かに存在するオルト水素の濃度[o-H_2]に依存してJ=1(I=1)からJ=0(I=2)への緩和速度が変化することが知られている。本研究ではパラ水素結晶中における分子の核スピン異性体間の状態緩和を振動遷移および回転遷移を測定することで、分子の原子核スピン異性体間の変換ダイナミクスを解明することを目的とした。 メタン分子CH_4(T_d)の同位体種CH_2D_2(C_<2v>)に対して結晶を作成したところ、対称性の違いによりv_3およびv_4振動モードの三重縮重が解け、それぞれ3つの振動回転遷移が観測された。CH_2D_2における核スピン異性体間の緩和過程の[o-H_2]依存性を観測した。[o-H_2]が1000ppm程度の高濃度領域におけるスピン異性体間の緩和速度はCH_4と比べてほぼ同じであった。低濃度の依存性については結晶製作過程で低濃度のo-H_2を作ることができなかったため、緩和速度の依存性を確認することができなかった。高温領域ではメタン分子のエネルギー準位構造に依存しないことから、結晶中に含まれるo-H_2との四重極-四重極相互作用による核スピン変換過程の可能性が示唆された。
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