研究概要 |
平成20年度は前年度に製作した高周波8重極線形イオントラップを用いたCa^+クーロン結晶の系統的観測を行った. 特にトラップ・パラメータ及びイオン数(4個〜10^4個程度)の違いによるクーロン結晶の形状変化をCCDカメラによって撮像し, その特性を調べた. その結果, ロッド電極に非対称静電圧を印加したとき, 数100個以上の多数イオンではトラップ軸に沿った葉巻型や球殻状といった構造が観測され, 少数イオンの場合, 線形ポールトラップでは見られない楕円状の2次元クーロン結晶の生成が確認された. これは非常に平坦な8重極擬ポテンシャルが電極の理想的配置からのずれや電極表面のパッチポテンシャルによる電場の歪みの影響を受けてイオンが配置した結果と考えられる, 本研究の結果はリング・円筒状結晶の生成にはポテンシャルの円柱対称性を保つことが重要であり, より小型の8重極トラップや6重極トラップが適していることを示している. 一方, 本研究では巨大クーロン結晶(長径1.7mm以上, 10^4個以上)の生成にも成功し, 蛍光スペクトル測定により温度が10mK以下であることを示した. これにより多重極型トラップの高周波加熱効果が従来の線形ポールトラップに比べ小さく, 多数イオンからなる極低温巨大クーロン結晶の生成に適していることを示すことができた. 当初の目的であった分子イオンの共同冷却実験は時間の制約上, 結果を得るに至らなかったが, ^<40>Ca^+クーロン結晶中に同位体^<44>Ca^+と思われる不純物イオンの影を捉えることに成功し, 多重極トラップにおいても共同冷却が可能であることを実験的に初めて示すことができた. これは, 分子イオンNH_3^+の共同冷却実験への布石として重要な成果である.
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