液晶はソフトマターと呼ばれる物質群の一つであり、外場により容易に構造変化をおきることは良く知られている。さらに液晶に高分子を混合すると単一の液晶流体には無い新たなレオロジー的性質が現れる。両流体間の相溶性、粘度、表面張力、誘電率、導電率がこのレオロジー特性を決める重要な因子である。両流体が非相溶で、誘電率と導電率の差が大きい場合に電圧の印加により粘度が劇的に変化する「電気粘性効果」がその良い例であり、その制御は工業的に重要である。本研究の目的は非平衡状態において形成される非相溶混合流体の構造が電場の小さな変化に対してどのような応答 (平衡系の線形応答に対応) を示すかを明かにすること、即ち動的構造のダイナミクスを明かにすることである。本研究では、非平衡定常系としてせん断流れ場における非相溶高分子ブレンドのダイナミクスを調べるため、そのドロプレット分散相において電場に対する流体の応力応答を測定した。その結果、ドロプレット変形由来の緩和が見られ、次元解析からその緩和時間はドロプレットサイズに比例し、せん断速度に反比例するのが分かった。この緩和の特徴的なことは応力の実数分部が負になることである。これらの結果をMaffettone-Minaleモデルを用いて解析して、定常せん断下でドロプレットの変形モードの固有値が複素数になることに起因し、応答関数は単純な緩和ではなく、減衰振動することが明確になった。これは速度勾配テンソルの反対称部分、すなわちせん断流動が起源である。これらの研究成果は、平衡状態では観測できない、せん断流下の非相溶混合流体の特異的なことで、非平衡定常状態の物理における重要な基礎的知見を与えるものと考えられる。
|