研究概要 |
今年度は, 一分子DNAの力学応答とDNA鎖の熱運動を直接観測するため, 力学応答及びDNA蛍光像の同時測定系を構築した. 光ピンセットを用いてDNAの末端間距離を制御しながらDNAの蛍光像を観測し, 両末端が固定化されたDNA鎖の熱揺らぎの大きさを定量化した. その結果, 固定末端からの距離とその位置における部分鎖の揺らぎの大きさの関係を得ることに成功した. これにより, DNA凝縮時の核形成頻度を定量的に議論することが可能となる. また, 部分鎖の熱揺らぎは, DNAポリメラーゼやRNAポリメラーゼ等のDNA結合蛋白質の運動に影響を及ぼすと考えられる. 今後, 末端間距離を系統的に変化させた場合のデータを蓄積することで, DNA-蛋白質相互作用におけるDNAの熱揺らぎの影響を定量的に示すことができると期待される. また, 原子間力顕微鏡を用いて一分子蛋白質(スタフィロコッカルヌクレアーゼ)の伸長実験を行い, アンフォールディング過程における力学応答を測定した. その結果, 力学応答に部分構造のアンフォールディングに対応したピークが現れるとともに, アンフォールディング経路は確率的に変化することを明らかにした. 蛋白質の部分構造及び凝縮DNAの力学的アンフォールディングは, ともにKramersタイプの遷移ダイナミクスで議論することができ, アンフォールディング時の張力の増加は, エネルギー障壁を超える際の実効的摩擦力と解釈できる. 本研究で得られたDNA及び蛋白質の力学的伸長に関する定量的知見は, 荷電高分子鎖のダイナミクスを解明するにあたり, 従来のバルク系の測定では得ることのできない知見である.
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