本研究の目的は、化学反応ネットワーク系の非平衡統計力学、非線形応答理論の構築を行い、その枠組みから、細胞内、細胞間等で行われる情報処理過程、エネルギーや状態の伝達、変換、識別、蓄積た潜普遍的側面と、個々の系の個性と機能性の関係を明確にする事である。 そこで本年度は以下のような研究を行った。I)細胞内では、非常に多くの種類の分子が存在する事が知られているが、その一方で、個々の種の分子の数が必ずしも十分多い訳ではなく、その分子数の離散性の影響が系の振舞にとって無視できない可能性がある。そこで本年度はまず、十分多くの分子種からなる化学反応ネットワーック系において、その分子数の離散性が及ぼす影響及び、その離散性ぶ影響を及ぼすような、普遍的な条件を明らかにするため、まず一様ランダムな反応ネットワークの諸性質を、確率離散粒子シミュレーションで調べた。そして、総分子数が少なくその離散性が系に影響を及ぼす場合、系が非定常的、間欠的に状態遷移を行う事、またそれによって、実効的なネットワーク構造が変更を受ける事を見いだした。またその離散性の影響は、総分子数がある閾値を下回ると顕著に現れる事を見いだし、更にその閾値が、分子種数とネットワークの繋がり具合から決定される事を見いだした。II細胞同士で行われる情報伝達と、それによる多細胞系の構造形成を議論するたあに、系を拍動する粒子集団でモデル化レ、その系の動的ネットワーク構造形成に関する数値的、理論的研究を行った。そこで、種々のネットワーク構造の形成を見いだし、また細胞個々の性質とメソスケールの構造形成、崩壊によるマクロ構造形成との関係を明らかにした。
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