研究概要 |
本研究の目的は、化学反応ネットワーク系の非平衡統計力学と非線形応答に関する理論の構築を行い、その枠組みを用いて、様々な生物の様々な部位で様々な形で行われる、様々な(広義の)情報処理過程、エネルギーや状態の伝達、識別、交換、蓄積と取り出し(記憶)、に潜む普遍的側面と、系の個性と機能性との相関を明確にすることである。 20年度は、1)Feed-Forward-loop cellular Automata(FFLCA)という力学系クラスの提案と、その解析によるFeed-forward-loop型ネットワークモチーフの機能性の可能性の探索、および、2)大自由度2体触媒反応ランダムネットワーリ系における、自己組織化臨界現象の実現、の2点について、研究を行った。 1) 生体内の反応ネットワーク中で意に多く存在すると報告されている、Feed-forward-loop型と呼ばれる3成分からなるシンプルな反応ネットワークモチーフに対し、その反応関係性と機能性の関係を明確にするために、FFLCAという力学系クラスを提案し、そのモデルクラスの網羅的解析により、その構造の機能性の可能性を調べた。その結果、このようなモチーフがカスケードを形成している場合に、最上流部分の入力に対し、a)入力の違いを異なる波に交換、増幅して下流に伝達(信号の増幅)、b)入力の違いに応じて、下流の状態をスイッチ(信号のフィルタリング)、およびc)入力系列に応じた、下流の状態パターンの維持と書き換え(信号の記憶)、等が実現できる事を見いだし、その機構を明らかにした。(A. Awazu 2008) 2) 大自由度2体触媒反応ランダムネットワーリ系において、特に、系への分子流入が小さく常に分子数が分子種数と同程度になるような状況における、系の分子の流入に対する応答性について調べた。そしてこのような場合に、系の反応性が時間的に非定常に揺らぎ、反応持続時間とその時の反応数がベキ分布を示すことが見いだされた。また、これが地震や砂山の雪崩等で指摘されている、自己組織化臨界現象と同等の現象であると捉える事ができることを示し、そのような解析から、細胞の反応性の非定常性のメカニズムを提案した。(A. Awazu and K. Kaueko, 投稿中)
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