前年度、構築したシクロデキストリンのモデルを用い、擬ロタキサンの形成、および擬ポリロタキサンの形成の詳細を調べた。擬ロタキサンの形成に関しては、様々な鎖長を持つ高分子鎖とシクロデキストリンの包接化合物の安定を解析し、鎖長が長くなるほど、包接化合物を形成している時間(包接化合物の寿命)が、指数関数的に増加することを明らかにした。また、擬ポリロタキサンの形成に関しては、包接化合物を形成しているシクロデキストリンは、そのまま包接化合物内にとどまるのではなく、高分子鎖の端から新たにシクロデキストリンが包接し、他方のシクロデキストリンが解離することで、高分子鎖上を移動することを明らかにした。 また今回、包接化合物の形成時に見られる高分子鎖の鎖長認識を明らかにするために、鎖長の異なる2種類の高分子鎖とシクロデキストリンの混合系において、シミュレーションを行った。その結果、シミュレーション初期段階では、短い鎖長の高分子鎖と包接化合物を形成するが、時間経過とともに、長い鎖長の高分子鎖と包接化合物を形成するシクロデキストリン数が増加し、最終的には、長い鎖長の高分子鎖のみと包接化合物を形成することを確認した。また、シミュレーションで用いるシクロデキストリン数を多くすると、両鎖長の高分子鎖と包接化合物を形成し、鎖長認識は見られなくなった。この結果は、実験結果と対応しており、今回、構築したモデルで、鎖長認識を再現することができた。この鎖長認識メカニズムは、包接化合物の寿命と密接に関係していると考えることができ、現在、詳細な解析を進めている。 以上のことから、今回構築したシクロデキストリンモデルは非常に有効であると言える。そのため、本研究の将来的な目的である生体系で観察される秩序形成、および分子認識に対して、積極的な応用を今後進めていく。
|