前年度までに、シクロデキストリンと高分子鎖に関する粗視化モデルを構築し、それぞれ、環状分子、鎖状分子として表した。今年度は、この粗視化モデルを用い、鎖長認識シミュレーションを行った。長さの異なる2種類の鎖状分子を用い、環状分子が、どちらの鎖状分子と包接化合物を形成するかを調べた。環状分子数が少ない場合は、長い鎖状分子とのみ包接化合物を形成し、鎖長が認識される。しかしながら、環状分子数が多くなると、両方の鎖状分子と包接化合物を形成し、鎖長認識は観察されない。この結果は、実験結果を非常によく再現している。次に、鎖状分子の長さの違いが少ない場合についても同様のシミュレーションを行った。その結果、環状分子の数に関係なく両方の鎖状分子と包接化合物を形成した。これら結果をより詳しく調べるため、包接化合物を形成してから解離するまでの時間、つまり包接化合物の形成時間に対する鎖長依存性を調べた。その結果、鎖長が長くなればなるほど包接化合物を形成している時間が長く、一度包接化合物を形成するとほとんど解離しないことが分かった。 以上の結果をもとに、鎖長認識メカニズムの調べるため、以下のような簡単な仮説を立て、鎖状分子と包接化合物を形成する割合を計算した。 1. 包接化合物はどちらの鎖状分子とも同じ確率で包接化合物の形成し、その後解離する。 2. 環状分子が解離している時間は、包接化合物を形成している時間に比べ非常に短く、無視できる。 この結果、シミュレーションで得られた結果と理論的に得られた結果を比較したところ、非常に良く一致していることが分かった。そのため、鎖長認識は、包接化合物を形成している時間の違いによって説明できると言える。
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