本年度はペプチド両親媒性分子 (PA) の合成に始まった。 目的のC16-W3Kの合成が成功していることを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)やMALDIで確認した。 その後、 水系の溶媒(塩入り)にPAを溶解させ、時間・温度・せん断によるゾルからゲル構造への転移を粘弾性挙動の解析により確認した。さらに円偏光二色性測定により、より小さなスケ-ルにおいても、 上記のゾル〜ゲル転移と同時期に2ヘリックス〜Bシートの分子コンフォメーション転移を起こしていることがわかった。これらスケールの違う転移が時間・温度・せん断などの外的環境パラメータにより同時に引き起こされるのは興味深い。また水系の溶媒でも塩を含まない時には、このような転移をみることはなかった。 pH依存に関しては今後の詳細な解析が待たれる。さらに、上記試料を乾燥後に原子間力顕微鏡で観察したところ、ひも状ミセル構造をみることができた。 乾燥状態においても、このひも状ミセルが安定に残っていたことはペプチド固有の両親媒性分子であるからと予測される。すなわち これは親水性基におけるβシート構造由来の水素結合による相対的に強い分子間相互作用が分子構造の安定化に貢献していたからだ、と考えられる。シミュレーションにおいても分子構造の構築に成功し、散逸粒子動力学法 (DPD)により実験に近い自己集合構造の濃度依存をみることができた。さらには時間・温度・せん断、特に最後のせん断において、計算からも上記実験における階層構造転移をみられたことの意義は大きい、と考える。
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