液体が凝固点以下の過冷却状態でもアモルファス構造が保持されるガラス転移の遅い動力学現象について、統計力学理論における液体論の知見を応用し密度揺らぎの多体相関関数を導入することによって解析を行った。本年度は通常の単純液体で見られるガラス転移現象だけではなく、多孔質媒体といった非一様場中にあるガラス転移現象について分子動力学シミュレーションを行った。本研究によって通常のガラス転移と非一様場中にあるガラス転移は異なる転移の様相を示すことを明らかにした。2つのガラス転移の違いは多孔質中での粒子ダイナミクスの変化を反映するものであり、つまりバルクに近い多孔質密度が低いところでは通常のガラス転移で見られるcage効果が依然として重要でありβ緩和からα緩和への2段階緩和を見ることができる。その一方で多孔質密度が高くなると流動粒子が狭い空間に局在することによって弱い長時間tailを持つ1段階緩和が出現することを明らかにした。さらに密度揺らぎの4点相関関数によって2種類のガラス転移のダイナミクスの違いを見ることができ、コロイドのゲル化における遅い緩和現象などその他の非一様系と類似点を明らかにした。注目すべきことに、最近になって理論側から新しい進展がありガラス転移に対する標準理論であるモード結合理論(MCT)が多孔質媒体中のガラス転移に応用されている。そこで2種類のガラス転移間の遷移はMCTの記憶関数における粒子と流動粒子との相互作用が大きくなることによるものと予測されており、本シミュレーションの結果と定性的に良い一致をしていることを見出した。
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