前年度、本申請課題であるアモルファス水氷表面(またはグラファイト)からの脱離水素分子の運動エネルギー測定を行うための飛行時間分布(Time-of-Flight : TOF)測定装置(TOF飛行距離 : 60cm)を組み立てたが、水素吸着Si表面から散乱するD_2分子の運動エネルギーの測定は行えたものの、テストサンプルとしての水素吸着Si表面からの水素引き抜き反応によって生成される水素分子を検出するには至らなかった。そこで今年度は、TOF飛行距離が38cmになるように装置の再設計を行った。それと並行して、水素原子ビーム源の性能評価を行った。まず水素原子ビームの性能評価を昇温脱離法と等温脱離法によって行った。テストサンプルに研究実績の多いSi表面を選択し、重水素(D_2)をRFプラズマによってD原子に分解し、Si(100)表面に照射した。その結果、Si(100)表面では0.6ML以下の水素被覆率領域で、これまで信じられてきた水素脱離の活性化エネルギー2.5eVが実は1eV程度低い1.6eVで、1次反応成分の他に2次反応成分も存在することを突き止めた。Si(111)とSi(110)表面についても行ったが、これらはこれまで報告されてきた値とほぼ同じであったことから、本研究で使用した水素原子ビーム源は非常に高性能であることが分かった。その後、飛行距離38cmのTOF装置を用いて脱離する分子の検出を試みたが、その信号を四重極質量分析計で検出することは出来なかった。そこで、水素原子ビームのフラックス強度を高める工夫を行った結果、Si表面ではあるが、信号を検出することが出来た。しかし信号強度のSINが悪いために100回測定を行って解析し、Si表面での水素引抜き反応のキネティクスとダイナミクスを論じる上で重要な結果を得た。今後、アモルファス水氷表面へと展開する。
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