研究概要 |
タイ王国・オムコイ気象レーダデータを用いて降水季節内変動(時間スケール10-60日の変動)の分散の地域特性と地形との関係を,1998-2000年のモンスーン雨季(5-9月)を対象に調査した。季節内変動は30-60日周期の変動と10-20日周期の変動の2種類に大別される。研究の結果,前者の変動はインドシナ半島西岸に沿って南北に伸びるドーナ山脈の東側(下層モンスーン風の風上側)でのみ卓越するのに対し,後者は山脈の西側でも東側でも見られることがわかった。このコントラストは,それぞれの周期変動をもたらす大気擾乱の構造が異なるために,山脈の及ぼす影響が異なるためだと考えられる。本研究により,これまで明らかではなかったアジアモンスーン陸域での降水季節内変動の詳細な特徴を把握することができ,数千キロメートルという大きな空間スケールを持つ季節内変動擾乱が,陸域の比較的小さいスケールの地形に強く影響を受けることが明らかとなった。これらの結果は,研究者のみならず,水資源管理・防災の観点からも半島各国にとって有益な情報となっている。さらに,30-60日周期の変動が風上側でのみ卓越する原因をより詳細に調べるため,領域大気モデルを用いた数値実験を開始した。2000年7月と8月下旬から9月上旬に発生した変動を対象事例に選定した。再解析データおよびレーダデータの解析により,これら2事例がどちらも典型的な30-60日周期変動の特徴を兼ね備えていることを確認した。続いて,特に降水分布に着目しながらこれらの事例の再現実験を行った。
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