研究概要 |
インドシナ半島にて降水の30-60日周期変動が山脈のモンスーン風上側でのみ卓越するメカニズムを調べるため, 昨年度に選定した対象事例について領域大気モデルを用いた再現実験を行った。シミュレーション領域やパラメタリゼーションスキームの選定を通じて, 再現精度の向上を目指した。これらの調整により, 風上側で30-60日周期変動が卓越するという大まかな特徴は再現できるようになった。一方で, 作業仮説を検証する上で不可欠な山脈付近での詳細な分布の再現は難しく, レーダデータから得られている観測結果と整合的な再現結果はまだ得られていない。 他方, 季節内変動の一種であるコールドサージが東南アジアに及ぼす影響について, データ解析研究を行った。1999年11月に発生したインドシナ半島東岸のベトナムでの豪雨や, 2008年にミャンマーに甚大な被害を与えたサイクロンNargisの発生過程に, コールドサージが関与していることを明らかにした。ベトナムでの豪雨は, コールドサージに伴う下層北東風が, 暖かい南シナ海から熱の供給を受けて不安定化し, インドシナ半島東岸のアンナン山脈で強制的に持ち上げられることによって発生したことを明らかにした。また, このプロセスにおいて, 南シナ海南部に存在した熱帯低気圧が大きな役割を果たしたことも統計解析及び事例解析により明らかにした。 サイクロンNargisの発生過程におけるコールドサージの役割については, 発生の直前に, コールドサージ起源ではあるが暖かい海面からの熱の供給により暖湿化した東風サージがベンガル湾に流入し, その突端で対流活動が活発化したことが事例解析により明らかにした。対流活動に伴って渦がスピンアップし, サイクロン強度にまで発達するきっかけとなったことを示した。
|