(1) 黒潮流路予測モデルデータを用いた2004年の大蛇行流路形成時における「膠州海山効果」の検証 海洋研究開発機構で開発されたJCOPE(Japan Coastal Ocean Predictability Experiment)で得られた同化データを解析し、九州南東沖から東進してきた引き金蛇行が潮岬沖で急激に増幅して大蛇行流路へと遷移した、2004年の6月中旬〜8月下旬にかけて、深層で膠州海山を取り巻くように高気圧性の循環が発達していることを確認した。続いて、この高気圧性の循環の発達に伴う潮岬沖での東向き深層流の強化が、1981年の大蛇行流路形成期に行われた、深層係留観測の結果と酷似していることを確認した。さらに、渦度バランスを解析して、膠州海山上の高気圧性の循環が上層の蛇行の谷を横切るところで、上層では渦柱のstretchingを通して蛇行の谷が発達すると同時に、深層では渦柱のshrinkingを通して高気圧性の循環が強化していることを示した。このような、膠州海山上の高気圧性の循環との相互作用によって上層の蛇行が発達していく様子は、まさに研究代表者が理論的に予測した通りであり2004年の大蛇行流路形成時に「膠州海山効果」が実在した可能性が極めて高いことが明らかとなった。 (2) 黒潮流軸の位置と膠州海山上での傾圧不安定の強さを結びっける関係式の導出 衛星海面高度計データと漂流ブイデータを組み合わせて作成した海面地衡流速場から黒潮流軸を抽出し、1993〜2004年の11年間で黒潮流軸が膠州海山上に存在していたのは、2004年の大蛇行流路形成時のみであることを見出した。この事実は、2004年の大蛇行流路形成時における「膠州海山効果」の存在を支持するにとどまらず、黒潮が大蛇行流路へと遷移するためには、九州南東沖から東進してきた小蛇行が潮岬沖で200km程度の振幅をもつ必要があることを意味している。そこで、現実的な海底地形の効果を取り入れた高解像度の流入・流出モデルを用いて数値シミュレーションを行い、潮岬沖での小蛇行の振幅が小さく流軸が膠州海山上に達しない場合には、大蛇行流路への繊維が起こらないことを明らかにした。
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