アンサンブル法を応用した新しいデータ同化手法を開発するために、まず既存のデータ同化手法の特徴と問題点についての調査をおこない、新しいデータ同化手法に求められる性能について検討を行った。海洋大循環モデルなどの現実的かつ大きな規模のモデルに対して用いられているデータ同化手法ではアンサンブルカルマンフィルターが数値モデルを直接的に用いて非線形モデルを線形化していないので、線形化の問題がおきない。しかしながら、このアンサンブルカルマンフィルターでは誤差がガウス分布をしているという仮定を用いているが、実際のデータ同化ではこの仮定が成り立たない場合が多いと言うことがわかった。その例として大気中の水蒸気量、海洋生態系モデルにおける栄養塩、プランクトン量など負の値をとらない濃度のような変数があげられる。このような非ガウス型の誤差について扱うことが出来るデータ同化手法としては粒子フィルターがあげられるが、非常に多くのアンサンブルをとる必要があるなど現実的な大規模モデルに適用することは現状の計算機環境では不可能である。 そこで、非線形性、非ガウス型の誤差分布などといった問題が存在する海洋生態系モデルをターゲットにデータ同化システムを構築し、新しいデータ同化手法の開発を行うこととした。まず、本年度はその準備としてまずadjoint法を用いてデータ同化システムを構築し、生態系データ同化システムの特徴について調べた。その結果、adjoint法を用いた状態推定はある程度可能だったものの、線形化の問題としてadjointモデルが長期積分には耐えられないこと、繰り返しの途中で負の濃度が現れる場合があることが確認され、高精度の推定には改良が必要であることがわかった。今後はこのシステムの改良を通してアンサンブル法を応用した新しいデータ同化手法を開発していく。
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