大気の上下方向の運動(鉛直流)は、雲内の凝結物(雲粒・降雪粒子・降水粒子)の鉛直方向の輸送を通して積雲対流の持続時間を決定する重要な物理量である。その一方で、凝結・蒸発・放射などの雲微物理過程は対流圏大気の加熱や冷却により鉛直流の大きさを決定する重要な要因である。本研究では、VHF帯大気観測用レーダー(中緯度域設置のMUレーダーならびに赤道域設置の赤道大気レーダー)による高時間・鉛直分解能の風速観測データと、他の観測機器による雲の観測データを用いて、以下の成果を得た。 (1)赤道大気レーダーで得られる鉛直流と雲観測用ミリ波レーダーで得られるドップラー速度の観測データを併用することにより、雲粒の落下速度を良い精度で得られることを示した。 (2)MUレーダーで得られる風速3成分(鉛直流・水平風)の観測データを用いて、中緯度域巻雲の雲頂付近における風速変動の詳細を示した。 (3)赤道大気レーダーで得られる鉛直流観測データを用いて、熱帯域対流圏中層の非降水雲内における鉛直流変動とその擾乱の詳細を示すとともに、鉛直流擾乱の生成要因につき議論を行った。 (4)信楽MU観測所において、開発中の9GHz帯気象レーダー・35GHz帯気象レーダーのシステム評価を行うとともに、降水領域最下部近傍の大気不安定現象に伴う鉛直流擾乱の観測に成功した。 本研究では、晴天領域・雲や降水のある領域の双方で風速3成分が観測可能なVHF帯大気観測用レーダーが、雲・降水に関連する物理現象の解明に有用であることを十分に示すことができた。本研究で得られた知見や経験をもとに、さらに詳細な雲・降水に関する物理量を得る観測手法を開発し、さらに開発した観測手法を用いて雲や降水現象の本質を解明していくことが期待される。
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