惑星の表層環境が海洋を保持しうる温度範囲にあるのかどうかは、惑星大気の放射輸送を計算してエネルギー収支がバランスしたときの惑星表層温度を調べることで第1近似としての答えを得ることができる. 様々な大気組成、惑星サイズ、中心星の放射スペクトル、といったパラメタ空間において、惑星大気の放射輸送を計算できるようになるべく、汎用性の高い鉛直1次元放射対流平衡の大気構造計算コードの構築と、大気の吸収線パラメタおよび熱力学データの収集とそのデータベースの構築をおこなった. 当該年度においては前年度に引き続いてテータベースを拡充するとともに、大気構造計算コードについては広範なパラメタスタディを効率よくおこなうための改良をおこなった. また、計算コードの動作確認および性能チェックを目的として金星大気の放射輸送計算をおこない、米国の探査機によって取得されたデータの解析をおこなった. この解析によって金星地表の近赤外線波長における放射率を世界で初めて推定することに成功し、金星では標高によって放射率に違いのあることを明らかにした. この結果の解釈には複数の可能性が考えられるが、そのうちのひとつは金星の高地がカコウ岩であるとするものである. カコウ岩の生成には海洋とプレートテクトニクスが必要であると言われており、そのことを受け入れるならば金星のカコウ岩は過去の金星に海洋とプレートテクトニクスがあったことを示唆するものになる. このことが確認されたならば、過去の金星は地球と同様に海洋を保持した「生命を育む惑星」であったことになり、「生命を育む惑星」の形成条件を考える上で非常に重要な示唆を与えるものとなる.
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