衝撃波遷移層における電子加熱効率のさまざまなパラメータに対する依存性を、H20年度までに整備した拡張された準線形解析を用いて詳しく調べた。比較的低マッハ数域では変形2流体不安定性(MTSI)が支配的となり、上流のマッハ数やプラズマベータ値、電子プラズマ/サイクロトロン周波数比は電子温度にあまり影響を与えないことを示し、特に電子温度のマッハ数依存性を定式化した。高マッハ数域で支配的となるBuneman不安定性についても捕捉理論を用いて電子温度のマッハ数依存性を定式化し、前者とともに1次元PICシミュレーションの結果と比較して妥当性を確認した。シミュレーションでは、いわゆる磁場のアンダーシュートにおいて、通常準垂直衝撃波では期待されない電子温度異方性(沿磁力線方向の電子温度が卓越)が確認され、低マッハ数域でMTSIが起こる際に見られる特徴であることが分かった。これらの結果をもとに、内部太陽圏における典型的な太陽風パラメータに対して、電子加熱機構が変化する臨界マッハ数を見積もった。臨界マッハ数の存在は、マッハ数によって衝撃波の散逸機構が質的に大きく変化することを示唆するが、一方でPICシミュレーションでは、この変化が衝撃波再形成過程に与える影響は限定的であることも示された。ただし、新たな知見として、電子-イオン間のスケール間結合を反映した遷移層の電磁場構造の時空間変化が、非熱的電子の生成機構に重要な役割を果たしていることも見出された。
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