研究概要 |
現在,巨大な大陸となっているアジアは中期古生代には大陸ブロックが分離した状態にあり,現在の大陸縫合帯や付加体にはこの時代の全球的な地史を解明する鍵となるパンサラサの情報が残されている.実際に最近,中期古生代の付加体が日本やモンゴルから見つかっており,中期古生代におけるパンサラサの実体が現実的に解明可能な課題となってきている.これに当たり,東アジア規模でみた上で検討が急務といえるのは黒瀬川帯である.九州中央山地西部に分布する同帯には,古期岩類としてシルル系〜デボン系整然層や,高圧型変成岩・堆積岩ブロックを含む蛇紋岩メランジュが存在する.前者はパンサラサ西縁の島弧近傍の堆積盆で形成されたと考えられており,後者には付加体が含まれている可能性が高い.従って,同帯古期岩類について岩相層序・放散虫生層序学的な検討を行えば,古生代中期のパンサラサ西縁の沈み込み帯-島弧近傍の地質現象について多くの新知見が得られよう. 以上のような黒瀬川帯古期岩類に基づいた中期古生代パンサラサ西縁の沈み込み帯・島弧・付加体形成の解明のために,本年度は(1)九州中央山地西部の野外調査による地質記載,(2)放散虫を主とした微化石の抽出と同定・時代決定を行った.検討の結果,熊本県砥用地域のシルル系〜デボン系整然層(洞が岳層・祗園山層)の多数の地点より後期シルル紀および前期デボン紀の放散虫化石を得ることができた.これらは群集構成・保存状態から判断してシルル紀/デボン紀境界付近の化石帯設定に対し極めて重要な資料となることが確実である.洞が岳層から得られた後期シルル紀放散虫化石の一部については,その含有層の地質記載と群集内容を邦文論文として投稿し,受理された.
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