研究概要 |
研究計画に基づき,今年度は以下のような研究成果を得た.1)野外調査および室内実験:2007年8月9日から8月29日にかけて,スウェーデン南部,キンネキューレ南方のベッケボルグおよびトロールメンに露出するカンブリア系の野外調査を行い,1cmスケールでの詳細な露頭柱状図を作成し,全層準にわたる連続岩石試料を採集した.その結果,保存のよい節足動物の化石は,露出している地層では最も下位に相当する,黒色頁岩層に挟まれた厚さ約20cmの石灰質ノジュール内の下部のゴマ粒状の物質とアグノスタスという節足動物の殻(頭部)が互層した,厚さにしてわずか5cm程の部分に密集していることがわかった.京都大学の前田・下林両先生と協力して,切片および薄片観察を行った結果,保存のよい化石が含まれる部分は,ゴマ粒状物質とその間を埋めるカルサイトから構成されていることがあきらかになった.SEM-EDX分析の結果,保存のよい化石はリン酸塩鉱物によって交代されていることも判明した.ゴマ粒状物質については,リンが濃集していること,SEMおよび光顕観察から不定形をした粒状物質の集合であることから,フィーカル・ペレットであると考えられる.つまり,ペレットが化石をコーティングしているリンの供給源であると推測される.さらにアグノスタスの殻から溶け出したカルシウムによる速やかな石灰化が働いたために厚密の影響から免れ,眼を含め微細な構造が3次元的に保存されたと考えられる.微細構造の保存状態から判断して,節足動物化石は現地性の可能性が高いが,ペレットの長軸が定向配列を示すことや,アグノスタスの殻が凸面を上にして保存されていることを考慮すると,生息場所からそれほど遠くない場所でペレットとともに埋没し,化石化したと考えられる.2)形態解析:3次元的に保存された三葉虫の複眼の解像度を見積もるために,生形(2004)を参考に3次元計測プログラムを作成した.標本を回収し十分な個体数が集まった後にSEM観察を行う予定であったが,耐震移転工事によって所属講座のSEMが廃棄されたため,計測が不可能になってしまった.目下,京都大学総合博物館所有のSEMを用いた
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