研究概要 |
前期アプチアンにおきた海洋無酸素事変0AE-laの時期が,地球最大規模の洪水玄武岩であるオントンジャワ海台の形成時期に近いことから,洪水玄武岩の火山活動が海洋環境を変化させてOAE-laの原因となったと提案されてきた。しかし,両者の関連についての証拠は得られていない。本研究では鉛同位体という新しい古環境指標により両者の関連について議論することを目的とする。堆積岩の鉛同位体比の変動から砕屑性成分の供給源の変遷を読み解くことができる。この原理をもとに,海洋無酸素事変の堆積物に大規模火山活動の痕跡が認められるかどうかを検討する。もしオントンジャワ海台の形成に伴う大規模火山活動が起きていれば,火山に特有の同位体比をもつ鉛が大気海洋系に放出され,堆積物の鉛同位体比が変化するはずである。平成19年度は主に堆積岩の鉛同位体分析を進めるための実験環境の整備に努めた。また,分析に必要な岩石試料も揃えることができた。堆積岩が堆積した時の鉛同位体比を高確度で復元するには現在の堆積岩中のウラン,トリウムと鉛の濃度比を高精度・高確度で求めることが必要である。様々な前処理を施した岩石試料を用意し,誘導結合プラズマ質量分析計を用いて異なる測定条件で分析し,どの定量法が最も適しているかを評価してきた。また,様々な試薬を用いて堆積岩のリーチング実験をおこない,堆積岩のどのフラクションがリーチングで除去され,また鉛の濃度がどのように変化するかを評価した。頁岩中の鉛は大部分が珪酸塩鉱物に含まれており,硝酸などの強酸を用いて長時間リーチングをおこなうと珪酸塩鉱物の一部が溶解し,これに伴って鉛が失われることが判明した。過酸化水素は有機物や硫化物を溶解させたものの鉛の量は変化せず,これらのフラクションは鉛の重要なリザーバーになっていないことが判明した。
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