高分解能X線非弾性散乱法は、極限条件下にある光学的に不透明な物質に対する弾性波速度決定法として注目されている手法である。本研究においては、Spring-8の高分解能X線非弾性散乱ビームラインBL35XUを使用した、高分解能X線非弾性散乱法による弾性波速度、および弾性定数の精密決定法を、測定法と解析法の両方の観点において、開発した。分光結晶アレイを用いて、逆格子空間内の多数の点においてフォノンのエネルギーを測定し、得られたデータをクリストッフェルの式を用いて解析することにより、常圧において酸化マグネシウム単結晶の体積弾性率を0.3%の精度で決定することができた。この測定法および解析法は、試料の状態によらないため、原理的には下部マントルの温度圧力条件に置かれた単結晶試料に対しても適用することが可能である。また、この手法を高圧力下にある単結晶に適用させるため、単結晶の合成・加工や適切な圧力媒体の探求などを行った。その結果、現時点ではフェロペリクレイスの単結晶に対して下部マントル条件に対応する複数の圧力条件において弾性波速度の測定を完了した。含鉄ケイ酸塩ペロブスカイトは研究対象のひとつであったが、十分な強度の非弾性散乱が得られなかった。それは結晶構造の対称性の低さに由来するものであると考えている。そのため弾性定数の決定を行うことができなかった。近く予定されているビームラインのアップグレードが完了すれば、入射X線強度が増大するので、測定が可能となるであろうと期待される。
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