1. マントル深部まで沈み込んだ海洋地殻のレオロジー性質がザクロ石に支配されるのに対し、マントルのレオロジーはかんらん石および含水化した場合には蛇紋石に支配される。本年度は、後者の含水化した場合の蛇紋岩のレオロジー性質を高圧高温変形実験により調べている。予察的ではあるが、蛇紋岩は低温条件でも塑性流動し、その塑性強度はかんらん石やザクロ石に比べ非常に低い傾向を示す。このことは、マントルが含水化している場合は沈み込む海洋地殻との間に非常に大きな粘性率コントラストを生じ、ウェッジマントルと海洋地殻はディカップリングしている可能性が高い。 2. ザクロ石の変形強度は水に敏感であるとの実験結果を検証するために天然のマントル捕獲岩中の変形組織と水の関係を調べた。キンバーライトに捕獲されたマントル深部由来のカンラン岩ではザクロ石はほとんど変形しておらず、沈み込み帯起源であるアルパイン型カンラン岩中の伸長したザクロ石と異なる。赤外分光装置を用いて両地域のザクロ石の含水量を見積もると、キンバーライト中のザクロ石の方が含水量が低く、変形組織の違いは含水量の違いによると推測される。なお、キンバーライト中のマントル捕獲岩はテクトスフェア(安定地塊下の厚いリソスフェア)由来であり、テクトスフェアを安定に維持するためにも同地域は低含水量である必要が数値計算からも示唆されている。 3. これまでのザクロ石に関する変形実験、天然の変形組織の研究成果をまとめ学術誌への投稿原稿の準備を行った。
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