新しく開発された「硝酸の高感度窒素・三酸素同位体定量法」を使って、実際に日本国内の湖および周辺海洋域における水環境中の硝酸について、その窒素・三酸素同位体組成を実測し、硝酸の起源および挙動の解析を行った。 (1)分析手法の実用化 硝酸の一酸化二窒素化ラインを作成し、試料量および反応試薬そして反応時間を統一することによって測定精度を上げ、硝酸の窒素・三酸素同位体分析手法の実用化・効率化を図ることに成功した。また、硝酸の分析システムを応用することによって、溶存有機物の高感度窒素同位体分析法の確立を行った。 (2)摩周湖調査 定期水質調査の行われている日本国内の代表的な湖である摩周湖にて湖水の各層試料数回を行い、硝酸の窒素・三酸素同位体組成および有機態窒素の窒素同位体組成の定量を行った。摩周湖における大気からの沈着に由来する硝酸が全溶存硝酸に占める割合は15%程度であると見積もられた。 (3)利尻島調査 利尻島において、降水、地下水、湖水試料を採取し、硝酸の窒素・三酸素同位体組成の定量を行った。その結果、利尻島の地下水中の硝酸は大気からの沈着に由来する硝酸の割合が7.4%と見積もられ、また、それらの大部分は同島の陸上森林生態系によって吸収・分解されていることが明らかになった。 (4)海洋調査 海洋研究開発機構の観測船を利用して、日本近海域で表層海水試料を広域的に採取し、硝酸の窒素・三酸素同位体組成の定量を行った。その結果、大気からの沈着に由来する硝酸が全溶存硝酸に占める割合が、オホーツク海表面水では7.5%程度、ベーリング海表面水では5%程度であることが分かった。
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