海底熱水活動に伴い、そもそも海水中に溶存している有機物は海底下で起こる熱水循環過程で除去されるのか、それとも地下生物活動などに伴い有機物の供給源となるのか、を明らかにすることを目的に、地質背景の異なる複数の熱水系から採取された熱水試料中の溶存有機炭素(DOC)濃度および低分子有機酸(ギ酸、酢酸)の分析を行った。本年度は、沖縄トラフの鳩間海丘、伊平屋北部、鹿児島湾内の若尊火口の3カ所の熱水系から採取された試料について分析を行った。また、同時に前年度本研究費で導入した有機酸分析システムについて、検出感度向上のための分析条件の検討を進めた。 分析の結果は、前年度の結果を裏付けるもので、DOC濃度は熱水系の地質背景を反映し、300℃を超す高温の熱水試料であっても、堆積物に覆われた熱水系では周辺海水より高いDOC濃度を示し、堆積物に欠く熱水系では周辺海水よりも低いDOC濃度であることが明らかになった。 低分子有機酸についてはギ酸および酢酸について検出限界濃度0.1μM/kgの条件で分析が出来る状態となった。この条件で本年度採取した試料の分析を進めたところ、DOC濃度とほぼ同様な傾向を示し、堆積物に覆われた熱水系では酢酸の濃度が高い傾向にある。しかし、堆積物に欠く熱水系から採取された高温熱水試料にもギ酸が検出され、熱水成分であるシリカの濃度と酢酸およびギ酸の濃度に相関が認められることから、これら有機酸は熱水噴出孔下の熱水溜まりもしくは岩石と海水が高温条件で反応する海底下深部に由来すると考えられる。このことから、これら成分は必ずしも熱水噴出孔下生物の影響を強く受けているものではないことを示唆している。有機酸の分布については次年度詳細に検討を進める。
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