今年度は、砂漠にて回収されたエンスタタイトコンドライト隕石から、計10片の片面研磨厚片を作成し、これら全てに対して偏光顕微鏡および走査電子顕微鏡(SEM)を用いた表面組織観察および化学組成定性分析を行った。また、電子顕微鏡(EPMA)による元素分析を行った。これらの分析より、隕石試料の鉱物・岩石学的記載、特に細粒物質から構成される領域(マトリックス物質)の同定とその組織観察および構成鉱物の同定を行った。これら光学・電子顕微鏡観察によると、粗粒の輝石(エンスタタイト)を主要構成鉱物とするコンドリュールが球形の形状を留めたままの状態で含まれていた。一方、マトリックス物質の一部には溶融した不透明鉱物(硫化鉱物)が含まれていた。このことは、今回作成した厚片試料は、隕石母天体での衝突による破壊や加熱の影響が見られるものの、impact brecciaやshock melt とされる隕石に比べて、非常に弱い天体変成しか経験しておらず、天体集積以前の始原的情報を保持している可能性の高い試料であることを示している。しかし、マトリックス物質を構成する鉱物や組織には同一厚片試料内においても局所的に異なっており、母天体での衝撃変成による影響が不均一であったことが示唆される結果を得た。これまでの観察によると、シリカ鉱物(トリディマイト、クリストバライト)やエンスタタイトコンドライトに特有の鉱物であるオルダマイト(CaS)は、衝撃変成の痕跡が見られるマトリックス物質部分に見つかっており、これらの鉱物の形成過程と衝撃変成との関連が示唆される。現在、これらの厚片試料に含まれるマトリックス物質のラマン分光による鉱物同定に加え、同位体分析(酸素同位体や希ガス同位体)、微量元素分析の準備を進めている。
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