研究概要 |
非平衡エンスタタイトコンドライト隕石の片面研磨厚片を作成した。また、この研磨片サイズにあわせた2次イオン質量(SIMS)分析用サンプルホルダを設計・作成した。これは研究代表者が過去に獲得した科学研究費補助金(若手B、2005-2006)において開発し実績を上げた方法を応用したものである。作成した研磨片の顕微鏡観察を行い、隕石試料の鉱物・岩石学的記載を昨年度に引き続き行った。これまでの研究により、エンスタタイトコンドライト隕石中の最も始原的な物質の一つは、コンドリュールの周りに付着しているリム物質である可能性が高いことが判明した。過去にも南極産隕石Y-691(EH3)中に研究代表者はglassに富むコンドリュールリム物質を発見していたが、今年度作成した砂漠隕石の研磨片中にはこれまでのところ見つかっていない。しかし、同様の物質が最近砂漠隕石でも発見されている(Weisberg et al., 2009)。従ってより多くの研磨片を作成し、この物質の同位体分析を含めた特徴の記載を行う。また、昨年度までに顕微鏡観察を終えたものの一部は、SIMS分析を行い始めた。結果は近く発表予定である。 一方、地球に落下し、我々が手にする間だけでなく、研究室で研磨片作成後でも研磨片表面に位置する硫化鉱物は次第に風化が進むことがわかった。これは地球物質や他の隕石には見られない、きわめて還元的な環境でのみ存在しうる鉱物を含むためである(Ca, Mn, Mgなど通常は酸化物として存在する元素が硫化物として存在する)。そのため、今後は作成した研磨片は真空デシケータ内に保管することでその影響を最小限にとどめることにした。
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