前年度の結果において、未処理のキトサンに比べ、低温プラズマ処理じたキトサンでは、血液凝固剤としての特性が向上し、凝固に要する時間が半減することがわかった。これらの効果をより詳細に検討すると共に、プラズマ処理におけるイオン・中性活性種の影響および発光の影響を分離し、官能基修飾・改質におけるメカニズムを考察することで、多糖類の分子構造制御の可能性について検討した。分子構造は、X線光電子分光法(XPS)により最表面を解析した。 アミノ基修飾に有効と思われるアンモニアプラズマでキトサンを処理した場合、分子構造の変化に最も影響するのは、水素イオンであり、側鎖のOH基の減少を示す結果が得られた。イオンエネルギーが低い領域では、OH基の還元・脱離が支配的な反応として進行し、分子を構成する酸素比は減少する。さらに、イオン加速のためのバイアス電圧を増加させると炭素同士の結合が切断され、バイアス電圧が100V以上になると、糖骨格への影響が顕著に現れた。 また、プラズマ発光における真空紫外光の影響を真空紫外分光器により評価した。アンモニアプラズマでは、真空紫外領域において発光スペクトルは観測されるものの、分子構造への影響は小さかった。しかし、窒素プラズマでは、アンモニアプラズマに比べ約4倍の強度の発光が観測され、10分間のプラズマ照射によりキトサンの分子結合への影響が確認された。なお、両プラズマ発光における可視光が分子構造に及ぼす影響はほとんど無かった。 さらに、医療用ポリマー表面へ血液凝固阻止作用をもつヘパリンの固定化とプラズマ処理の効果についても調べた。なお、ヘパリンは、キトサンと同じ多糖類であるが、側鎖の官能基により血液凝固に関わる特性は全く異なる。解析結果によると、プラズマ処理により修飾したアミノ基の量に比例してヘパリンの固定化量が増加していることがわかった。
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