走査トンネル顕微鏡(STM)は、試料表面の原子構造の観察だけでなく、探針と試料間の電位制御により個々の原子・分子の分光が可能である。本研究の目的は、従来のSTM装置にレーザー光を組み合わせてより高い時間分解能を有するトンネル顕微鏡を構築し、単一分子さらには分子内における動的過程を明らかにすることである。平成19年度の研究成果は下記の通りである。 1 外部分光測定機器の構築 本補助金で購入したロックインアンプをSTM装置と組み合わせることで、外部制御によるSTS分光およびIETS分光ができるようになった。また、電流導入端子付きの加熱蒸着源を自作し真空装置に取り付けることにより、超高真空下で粉末状の分子を試料表面に吸着させることが可能となっだ。 2 試料基板の調製 酸化膜による絶縁層形成が可能なNiAl(110)基板を購入し、基板表面の清浄化を行った。Arスパッタリングおよびアニーリングの繰り返しにより、清浄化された原子フラットな表面が得られた。またSTM測定により基板の原子配列を確認した。 3 金薄膜におけるレーザー誘起発光測定 チタンサファイアレーザー光照射による金薄膜からの時間分解発光計測を行った。その結果、2光子吸収による金薄膜からの発光を捉えることに成功した。発光寿命は240ps程度であることが見積もられ、これはSTM測定で得られた寿命と同程度であることがわかった。 4 理論計算環境の構築 計測された発光スペクトルおよび電子状態の解釈は容易ではなく、実験結果の理論的裏付けが必要である。そこで、ワークステーションおよび密度氾関数理論のソフトウエア(VASP)を購入し、理論計算を行う環境を整備した。
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