走査トンネル顕微鏡(STM)は、試料表面の原子構造の観察だけでなく、探針と試料間の電位制御により個々の原子・分子の分光が可能である。本研究の目的は、従来のSTM装置にレーザー光を組み合わせてより高い時間分解能を有するトンネル顕微鏡を構築し、単一分子さらには分子内における動的過程を明らかにすることである。平成20年度の研究成果は下記の通りである。 1. Au(111)表面にカーボンナノチューブを固定化させ、その吸着状態をSTMにより局所観察した。ドライコンタクト法を用いることにより、表面の汚染なくカーボンナノチューブを金属基板に保持できることを確認した。また、STM探針からの電圧パルスをカーボンナノチューブに印加することにより、局所的にカーボンナノチューブ構造を変化させることができることを見いだした。さらに、加工されたカーボンナノチューブの発光現象をSTM発光分光により調べた。その結果、局所的に構造変化したカーボンナノチューブの発光スペクトルは、無加工のスペクトルと比較してブルーシフトすることがわかった。 2. ベンゼン分子を吸着させたCu(110)表面を測定試料とし、レーザー照射の有無に伴うSTM発光スペクトルの変化を高い精度で計測することを試みた。その結果、表面プラズモンに起因するブロードな発光スペクトルと併せて、レーザー光照射に起因するスパイク状のピークが出現することを見いだした。スパイク構造のピーク間隔は、ベンゼン分子のC-H伸縮振動のエネルギーに相当することが同位体置換されたベンゼン分子を用いることにより明らかとなった。
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