平成20年度は強レーザー場電子散乱法の実現を目指して、予備実験や装置の改良などを行った。まず、マイクロチャンネルプレートを用いた電子線パルスの時間幅計測から、電子線のパルス時間幅が約40nsであることが分かった。また、微小信号の高精度観測を目指して、電子散乱画像の計数法観測のためのデータ取り込みシステムを構築した。そして、散乱電子の計数法測定から背景信号の強度は弾性散乱信号の約10^<-3>程度であることが分かった。観測対象となる信号強度は弾性散乱信号の約2×10^<-6>程度と見積られるため、観測する信号は背景信号の約2×10^<-3>程度と考えられる。そのため、目的の信号を観測するためには非常に高いS/N比が必要になるが、実際の測定では電子線の強度不足のため、観測対象となる信号の有無を判別するほどのS/N比が得られなかった。 そこで、電子線強度の向上と電子線パルス幅の短縮による背景信号の軽減を目的として、光電陰極型超短パルス電子銃を新たに設計・製作した。この電子銃は銀コートされた窓材(膜厚50nm)からなる陰極に266nmの光パルスを背面照射することによって光電子を発生させ、0.3mm下流に設置した陽極によって直ちに1keVまで加速する。加速された電子パルスは電磁レンズによってコリメートされ、偏向器を経て散乱点に達する。製作した電子銃についての電子線軌道シミュレーションを行った結果、従来の電子銃よりも電子線強度で約20倍、背景信号とのコントラスト比で約400倍の向上が見込まれ、光電場内電子散乱法の実現に十分な性能を持つことを示した。
|