細胞内に水分子と共に存在する様々な溶媒分子(コソルベント)は、生体高分子の立体構造や機能発現に重要な影響を与えている。本研究は不明な部分の多いコソルベントの作用機構を、分子レベルで解明することを目的としており、より現実的な細胞内環境における生体分子の機能解析に有用と思われる。研究手法として、コソルベント水溶液中のタンパク質を対象系とした分子動力学(MD)シミュレーション法を用いた。さらに、液体の統計物理学理論であるKirkwood-Buff(KB)(カークウッドーバフ)理論に着目し、これを生体高分子などの巨大分子系に適用するための一般化と、MDシミュレーションとの併用を試みた。その結果、(1)環境ストレス調節分子「エクトイン」のタンパク質安定化と、変性剤である「尿素」の作用メカニズムについて、分子レベルの有用な知見が得られた。また、(2)タンパク質の重要な熱力学量である「部分モル体積」の空間分布を、KB理論を用いて調査する事で、立体構造変性にともなう部分モル体積変化の物理化学的起源を明らかにした。これらの成果は、物理化学分野の主要国際誌にて発表した。 その他、研究によって生じる膨大な多変量データの特徴を、効果的に抽出し、可視化することを目的として、(3)自己組織化マップ(SOM)を用いた分子立体構造分類法の開発を進めた。これについては、開発した手法の数学的解釈を拡充させた論文化を進め、数学分野の国際誌にて発表した。
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