研究概要 |
研究対象として解析する新奇物質系は、ドナー分子層の伝導性とカウンターイオン層の磁性がカップリングした各種の「磁性伝導体」の分子性結晶である。これらに関しては、既に小林(分子研)らにより超伝導性+反強磁性の性質を有するκ-BETS2FeX4が報告され非常に注目を集めた。しかしながら、超伝導性+強磁性である物質の探索は未だ発展途上であった。そこで、本申請課題では種々の磁性伝導体の分子性結晶を包括的に取り扱うことができる理論的な方法論の開発と、各分子性結晶への適用を行った。 平成22年度は、前年度に引き続き相互作用パラメータに関する研究を行った。J,J'に着目した。つまり、本申請者は、従来より分子軌道法を用いて有効交換積分値(J)を見積もることで、有機強磁性体や有機超伝導体の解析を進めてきた。しかし、これらの学際分野が深化するにつれて、ノンコリニアー的スピンの取り扱いなど、次のステップの有効交換積分値の計算手法の開発が急務となってきた。そこで、拡張した有効交換積分値(J')を定義し、障害なくあらゆる対象系にて計算可能とした。具体的には、スピンの傾きを取り扱う分子軌道法の新手法のGHF,GDFT法が必須である。しかしその解にローカルミニマムが多数発生し、真の解を得るのが非常に困難である。これはスピンの自由度を解放したことでの任意性の増大が原因である。解決策として、化学的洞察に基づいたノウハウの蓄積が急務である。種々の磁性伝導体にてJ'の高精度計算を実行した。更に、統計理論的なスピンシミュレーションを実行することで、各種のマクロな物理量を算出した。これにより、実験による磁化測定などの結果との比較を可能とした。
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