タンパク質の折り畳み問題を水の第2臨界点仮説から説明するため、多孔性シリカガラスおよびデキストランゲル中に閉じ込められた水のダイナミクスを中性子散乱によって観測した。ドイツのハーンマイトナー研究所にて、水(重水)を吸着させたデキストランゲルの中性子非弾性散乱を370-180Kの温度範囲で測定した。得られた中間散乱関数から水分子の平均自乗変位(RMSD)、緩和時間および緩和時間の分布βなどの動力学パラメータを求めた。多孔性シリカガラス、あるいはデキストランゲル中に閉じ込められた水、および生体分子に水和している水、これら三種類の水について、動力学パラメータの温度依存性を比較したところ、非常に良く似た挙動をとることが示された。シリカガラスは硬い細孔障壁を持つが、デキストランゲルは柔らかい細孔障壁を持つ。細孔障壁の硬軟にかかわらず、細孔に閉じ込められた水はともに生体中の水のよいモデルとなることが明らかにされた。そして、過冷却条件下で存在すると言われている水の高密度水-低密度水転移(液-液転移)と220K付近でタンパク質の運動に非調和性が生じる動的転移との関連性を考察した。一方、高輝度光科学研究センター(SPring-8)にて、水を吸着させたβ-ラクトグロブリンのX線非弾性散乱を測定した。バルク水では水素結合ネットワーク構造に起因する動的音速が観測されるが、タンパク質に水和した水についても同様の現象が見られることを示した。今後は、さらに詳細な解析を行い、タンパク質の水和水に関する性質をダイナミクスの観点から明らかにする予定である。
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