研究概要 |
タンパク質の表面水は不凍水であり、220K付近で動的クロスオーバーが観測される。本研究では、これは表面水がfragile液体からstrong液体へ転移することが原因であると考え、より単純な不凍水のモデルである細孔水の動的挙動を調べた。細孔サイズが約2nm以下の空間内に閉じ込められた水では氷の均一核形成はおこらず、生体内の不凍水のモデルとして適切である。平成21年度では、親水性表面を持つ多孔性シリカ材料やデキストランゲルに閉じ込められた不凍水の動的性質を非弾性および準弾性中性子散乱や非弾性X線散乱などにより研究した。実験はベルリン中性子散乱センター(ドイツ)、日本原子力研究開発機構(東海)、SPinrg-8(西播磨)で実施した。室温から170Kまでの温度で測定された中間散乱関数は拡張指数型関数で近似して、緩和時間、弾性散乱項を得た。緩和時間の温度依存性のArrheniusプロットについて、単層吸着水はstrong液体の挙動を示す一方、毛管凝縮水は220K以上の温度ではfragile液体であった。したがって、細孔水のダイナミクスは不均一であり、中心部に近い水はよりバルク水(fragile液体)に近いと思われる。さらに、タンパク質表面水で観測される220K付近でのfragile-strong転移は細孔水の中心部に近い水の性質を反映しているものと推測される,また、準弾性中性子散乱により溶液中でのタンパク質の運動も観測し、タンパク質の構造や運動と溶媒分子の運動との関連についても研究した。そして、水中でのみタンパク質がユニークな構造に自発的に折りたたまれる現象を溶媒である水の性質の観点から議論した。
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