本研究では、フェムト秒超短パルスレーザー光励起により引き起こされる、固体表面吸着種の核波束運動を観測し、その制御を行うことを目的とする。表面化学反応の制御を念頭に置き、反応につながると期待される振動モードのコヒーレンスの誘起・観測を行い、その振動位相と化学反応効率の関係を明らかにする。 本年度は、金属表面上の分子種の束縛振動コヒーレンス観測のため、現有の超短パルス光発生装置の改良とこれを用いた表面非線形分光の光学系構築を行った。 具体的には、現有のチタンサファイアレーザー(中心波長800 nm、パルス幅130fs)のパルス幅を1/5程度の30フェムト秒以下に圧縮する光学系を構築し、パルス圧縮に成功した。Krガスを約2気圧封入したセル中にレーザー光を集光し、スペクトルのブロード化を行い、負分散ミラーで反射させることにより、チャープを取り除いた。これまで用いてきたパラメトリック増幅器による超短パルス化では、光強度が十分でなく、今回のパルス圧縮により広い対象の吸着種の振動励起・観測が可能になると期待される。デモンストレーションとして、時間分解第2高調波測定光学系を構築し、超高真空下における銅(111)面に吸着したセシウム原子の振動コヒーレンスの時間領域観測に成功した。第2高調波測定の結果から、レーザー照射によるプラズモン励起による第2高調波発生の強い増強が起きることが分かった。また、セシウム-銅基板間振動コヒーレンズのピコ秒領域の減衰挙動を明らかにした。
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