複雑な分子の遅いダイナミクスの解明に向け、本年度はまず、顕微分光光学系をベースとした蛍光相関分光システムの立ち上げを行った。フェムト秒チタンサファイアレーザー(Coherent社Mira 900-F)と時間分解能50ピコ秒のアバランシェフォトダイオード検出器(id Quantique社id100-20-ULN)、倒立型共焦点顕微鏡(Nikon社TE2000-U)、時間相関光子計数ボード(Becker&Hickl社SPC-140)を組み合わせ、希薄溶液から発せられる蛍光の強度揺らぎを蛍光寿命と相関させて測定するシステムを製作した。さらにルーター(Becker&Hickl社HRT-82)の導入により測定の多チャンネル化を行い、蛍光の波長・偏光の揺らぎの相関の測定も可能とした。これらのデータから分子固有のダイナミクスの情報を引き出すため、各フォトンの絶対到着時間から信号の各種時間相関関数を計算するプログラムの開発を行った。また、現在波長可変フェムト秒励起光源として光パラメトリック発振器の利用を計画しており、そのための準備を進めている。これらの技術を合わせて用いることで、顕微鏡の対物レンズの焦点領域を通過する単一分子を様々な波長で励起し、そのダイナミクスを発光シグナルの相関関数の形で観測することができる。これにより、本研究課題の目的である単一分子の振動スペクトルの揺らぎの測定につながるものと期待される。
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