研究概要 |
近年,多核金属錯体や,金属イオン集積錯体の合成と機能評価が注目されている。これらの金属錯体においては金属イオン同士の直接的・間接的相互作用により単核錯体にはない物性や機能の発現が期待される。当然,これらの機能は分子中の金属イオンの配列に大きく依存する。よって,1)金属イオンの性質に対応でき,2)安定な錯体を高効率的に生成し,なおかつ3)立体構造を制御できるような,万能な配位子の開発が必要となる。そこで本課題では,フェノール環状オリゴマーであるカリックスアレーン類の配位環境を巧みに利用して複核金属錯体の立体選択的合成を試み,生成した錯体の機能評価を行なうことを目的としており,本年度は以下のことを明らかにした。 架橋基の異なるカリックスアレーン類とチタン塩,ホウ素塩との反応を種々行い,生成する錯体の構造をNMRスペクトル,組成を質量分析により精査した。その結果,スルフィニル基を有するカリックスアレーンとトリエチルボランの反応では生成する二核錯体の立体構造を完全に支配できることが明らかとなった。すなわち,スルフィニル基を有するカリックスアレーンには四つのスルフィニル基の配向により四つの異性体が存在するが,この異性体を使い分けることにより,二核ホウ素錯体を立体選択的に調製できる。スルフィニル酸素の向きと金属中心への配位が錯体の立体選択的な生成において重要であり,これはX線結晶構造解析より証明することができた。
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