フォトクロミック反応により電荷移動量変化を示す電荷移動錯体結晶を創製することを目指して、酸化電位を大きく変化させるフォトクロミック分子の合成、ならびに電荷移動錯体結晶のフォトクロミック反応による電荷移動量と電気伝導度の変化について検討した。また、研究を進める過程の中で、結晶が光可逆な形状変化を示すことを見出したので、その機構を検討した。 電子ドナー部位としてフェニレンジアミン部位を有するジアリールエテンの末端に電子求引性基(アルデヒド基、ジシアノエチレン基)を導入した新規分子について、電気化学特性とフォトクロミック反応特性を検討した。アルデヒド基を有する分子は、フォトクロミック反応に伴い、以前に合成したフェニル基を有する分子よりも大きな酸化電位の変化を示したことから、本研究の分子設計指針の有効性を確認した。また、強い電子求引性基を有する分子ほど、分子内電子供与・求引効果により閉環体の吸収帯が長波長化し、紫外光照射時の異性化反応変換率が低下することも分かった。 テトラチアフルバレン部位を有するジアリールエテンとテトラシアノキノジメタン誘導体からなる1:1交互積層型結晶について温度可変赤外スペクトルを測定したところ、低温においてテトラシアノキノジメタン由来の吸収帯がシフトしたことから、温度によって電荷移動量が変化することが示唆された。光照射を行ったが、この結晶については光反応性が抑制され、赤外スペクトルの変化は見られず、電荷移動量の変化は観測されなかった。電気伝導性についても光照射による変化は観測されなかった。 ナフタレン部位を有するジアリールエテンとオクタフルオロナフタレンからなる1:2交互積層型結晶が紫外光および可視光の照射により可逆的な屈曲変形を示した。X線結晶構造解析により、光反応に伴う分子構造変化と結晶構造変化、変形挙動の相関を明らかにした。
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