高周期元素の多重結合の化学は、同種元素間二重結合の化学を中心として発展してきた。一方、異種元素間多重結合の化学は、選択的合成が困難であるため未解明分野の一つに挙げられる。本研究では、未知化合物であるケイ素-リン三重結合化合物の合成を目的として研究を行った。平成20年度中に実施した合成研究としては、前年度の検討した三重結合前駆体からでは安定な14-15族元素間三重結合化合物を合成するには不適当だったので、十分な立体保護効果の期待できる新しい嵩高い置換基としてケイ素上に導入する置換基を剛直な構造のトリプチシル基を導入した化合物を設計し合成検討した。現在のところR-SiX2-PH2(Xはハロゲン)と表せる三重結合前駆体化合物の有効な合成法はほとんどなく、また今回検討した方法も有効な合成法にはならなかった。しかしながらR-SiF3に対してPH2Liを作用させることでの前駆体を得ることには成功した。前駆体と各種塩基との反応を行い、脱プロトン化-β脱離による多重結合の生成を試みたところ、ケイ素一リン三重結合化合物を得ることはできなかった。脱プロトン化はスムーズに進行するものの、続くβ脱離が遅く、より脱離反応を促進させる工夫が必要だと思われる。
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