研究概要 |
本研究は, 遷移金属原子と典型金属原子の空間配置を制御することで, より高度な効率性や選択性が獲得可能になるとの考えのもと, 独自の新規触媒系の開発を行うことを目的としている. 具体的には, 遷移金属と典型金属がかかわる触媒反応の代表例として, 銅触媒と有機亜鉛試薬によるアリル位置換反応をとりあげ, その位置および立体選択性の精密制御を目指す. 今年度は, 前年度の反応機構研究の知見を踏まえて, 銅触媒による不斉アリル位置換反応の開発を行った. 種々のアミノ酸から誘導した多座ホスフィン配位子をスクリーニングした結果, プロリンから数段階で合成されるアミノヒドロキシホスフィン配位子が, 銅触媒と有機亜鉛試薬によるアリルリン酸エステルのアリル位置換反応において高い位置および立体選択性を示すことを見出した. 本反応の経路と選択性発現の要因について知見を得るため, 実験系とほぼ同規模の計算モデルを用いて理論計算を行った. アミノヒドロキシホスフィン配位子のリン原子は銅へ, 窒素原子は亜鉛へと配位し, アルコキシド酸素は両金属を架橋することにより, 銅・亜鉛複核金属活性種が生成するものと考えられる. この複核錯体が基質であるアリルリン酸エステルに作用する際, 銅が求核中心としてオレフィン部位を, 亜鉛がルイス酸中心としてホスフェート酸素原子を協働的に活性化し, ホスフェートの脱離を促進する. この強固な遷移金属-オレフィン間とルイス酸-ルイス塩期間の二点相互作用が高い立体選択性の発現に寄与していることが示唆された. アリル位置換反応をはじめとして, これまで不斉有機銅触媒反応の機構に関する知見はほとんど得られておらず, その開発は実験的試行錯誤に大きく依存していた. 本研究は, 今後の銅触媒反応の設計開発を合理的に進める上で有益な知見をもたらすものといえる.
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