生体内で発色団となる補酵素B_12は、UVA領域、さらに領域に強い吸収を持つことが知られており、光照射を行うことでそのコバルトー炭素結合が開裂し、アルキルラジカルを生成する。しかしこのようなアルキルラジカルによる直接的なDNA切断については、まだよくわかっていない。そこで補酵素B_12から発生するアルキルラジカルによるDNA損傷機構について詳細に検討を行った。 アルキル基としてメチル、およびベンジルをもつB_<12>モデル化合物である有機コバロキシムと、メチル基およびアデノシル基をもつ補酵素B_<12> (CH_3Cbl、AdoCbl)を用いた。これらの錯体はいずれも光照射によってコバルト炭素結合がホモリディックに解裂し、アルキルラジカルとコバルト2価錯体を与えることが知られている。実際にそれぞれの化合物を加えたDNA溶液について窒素下と酸素存在下で光照射を行い、DNA切断の割合を調べた結果どの化合物を用いた場合でも酸素存在下ではほとんどDNA切断が起こらないことがわかった。一方窒素下では、有機コバロキシムとCH_3Cblを加えた場合に効率のよいDNA切断が見られ、AdoCblではその切断活性が低下した。従って、メチルラジカルが生成した場合に高効率のDNAからの水素引き抜きがおこっていると考えられる。 CH_3CblにDNAの核酸塩基を加えて光照射を行ったところ、CH_3Cblの吸収スペクトルがすみやかにコバルト2価錯体由来のものに変化した。また、2重らせんDNAを用いた場合にも、やはり効率よくCH_3Cblと光反応を起こすことがわかった。さらに反応後のサンプルからガスクロマトグラフィーによりメタンが検出され、メチルラジカルによるDNAからの水素引き抜きが起こることが明らかになった。CH_3Cblのコバルトー炭素結合の光によるホモリティックな解裂は、ESR測定によりコバルト2価錯体を検出することによっても確認した。以上本研究では、補酵素B_12によるDNA切断を初めて見いだし、アルキルラジカルによる実際のDNA切断活性について明らかにすることができた。
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