ヒドロキシルラジカルなどの活性酸素種(ROS)が、DNA損傷やタンパク質の変性を引き起こしていることが知られている。一方、カテコール系の神経伝達物質(エピネフリン、ノルエピネフリン、L-ドーパ、ドーパミン)は、ROSの消去能を有する。このROSの消去反応がプロトン共役電子移動を経て起こる場合は、金属イオンが中間体と相互作用することによって安定化して、ROS消去活性が向上することが報告されている。しかし、神経伝達物質によるROS消去反応の金属イオンの影響についてはわかっていない。本研究では、カテコール系の神経伝達物質によるにROS消去反応の金属イオンの効果、ROSのモデル化合物の消去速度および、ヒドロキシルラジカルによるDNA損傷の阻害効果について検討を行った。 室温、アセトニトリル中、ROSのモデル化合物であるガルビノキシルラジカル(GO)は神経伝達物質によって効率よく消去された。その反応速度定数(κ)は、緑茶カテキンに匹敵することがわかった。この反応系に金属イオンの一つである過塩素酸マグネシウムを添加すると、マグネシウムイオン(Mg^<2+>)の濃度の増加に伴って反応速度定数は顕著に増加した。これは中間体として生成するGOアニオンがマグネシウムイオン(Mg^<2+>)によって安定化された結果、電子移動反応が加速したためであると考えられる。次に飽和酸素条件下、PBR322 DNAとニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)を含む緩衝溶液に340nmの光を照射した後に電気泳動を行うと、ヒドロキシルラジカル(OH)によってDNAが切断されたフォームIIの割合が増加する^<2)>。この反応系に神経伝達物質を添加すると、フォームIIの割合は低下し、DNAが切断されていないフォームIの割合が増加した。これは神経伝達物質がヒドロキシルラジカルを効率よく消去していることを示している。この反応系に過素酸マグネシウムを添加して光照射した後に電気泳動を行うと、ドーパミンを加えた場合、マグネシウムイオン非存在下よりもフォームIの割合が顕著に増加した。以上の結果から、ドーパミンによるROSの消去活性はマグネシウムイオンによって顕著に増大することがわかった。
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